カエルのぬいぐるみ、の話
私の作る図書館には、いつもカエルのぬいぐるみがいるのですが、かわいいから置いているのではありません。
あれは商品名を、ピクルスグリーン3L、といい、もう30年以上作り続けられている、ぬいぐるみの中では長寿の商品ですが、なぜカエルが図書館に来ることになったかというと、かなり長い紆余曲折があったのです。
まず、私の作る図書館、特に学校は、ほぼ、常駐の司書のいない図書館でした。
いても一番多いパターンは、一日4時間、週3日……。
つまり、半分以上、誰もいない図書館になりますが、誰もいない図書館は、子どもには淋しい場所になるのです。
なので、日本人は蒙古系で、なんでも擬人化するのが得意なので、司書の代わりに出迎えてくれるものとしてぬいぐるみを置こうと思い、小学生と同サイズのものを探して置いてみました。
当時は20代シングル女子、が、ワンルームのベッドに大きなぬいぐるみを置くのが流行ってたので種類があったのです。
ところが!
熊やゴリラのように強そうなものは、男子が興奮して叩いてしまうのです。
イルカやカメは乗られて潰れましたので海系はダメだということもわかりました。
キリンもブタも乗られて潰れたので、脚のあるものは乗ってしまってダメだということもわかりました。
ペンギンはかなりうまくいきましたが、思ったより愛されませんでした。
なんというか、あの丸々としたフォルムだと、とりつくしまがない、というか……。
スヌーピーやキティやディズニー系は意味合いが強すぎて使えない(なので、学校図書館にはくまプーその他、クレーンで取ってきた人形は置かないでください。部屋が壊れます)。
というわけで、ありとあらゆるぬいぐるみを試した結果、ピクルスに落ち着いたのです。
ヨーロッパのお高いぬいぐるみにはいいものがたくさんありましたが、10万は高すぎて使えない。
ピクルスはお値段も一万円なのでなんとかなりました。
あの、なんともいえない力の抜けた顔が良かったのだと思いますが、カエルに喧嘩を売る男子はいませんでした。
😁
カエルがカウンターに座っただけで、高校でもお客様は3割増えました。
隣の椅子に置いたり、膝の上に置いて勉強している人も日常になりました。
正直、高校でもウケるとは夢にも思いませんでしたが、背中に背負ってたり、一緒にカーペットに寝転んだり……。
小学校から高校まで、こんなにまで愛されるとは本当に予想外でしたが(私は、そういうものはどうでもいいタイプなので)ピクルスは、お値段以上にどこでも働いています。
人間には手が二本しかないので、一人の司書が抱えられる子どもの数は限られるのですが、ピクルスは人間二人分くらい、子どもを抱えてくれるのです。
(図書館の棚をちゃんと作る目的はここにもあります。力のある本棚は、子どもたちを惹きつけ、慰め、生きた司書同様に子どもたちを抱えてくれますから)
人間は実に想像力と物語性に富んだ生物だということを、ときどき嫌になるほど感じます。
そうして、それを利用しないと、大勢の人々が集う場所を、特に子どもたちの居場所を構築するのは難しい。
もしかしたら、他の生き物と人間が一番違うのはここなのかもしれない、と思うほどです。
ほかにも、ハリネズミやアノマロカリスのように、さまざまなぬいぐるみを使っていますが、どれも試行錯誤の上にたどり着いたもので意味があるのです。
その話はまた、別の機会に。