3月20日~今年のセレクションはこれです!
「ミステリーはおもしろい」
ミステリー、ホラー、ファンタジー(のちにはSFも)はみなゴシックロマンスから生まれたきょうだい(翻訳家兼ゴシックロマンスの専門家である金原瑞人氏からの受け売り)だそうですが、時がたつにつれて、そのミステリーも、本格派だの、ハードボイルドだの、といろいろなジャンルに分かれていきます。
この「ミステリーセレクション」では、そのなかでも〝謎解き〟〝推理〟をメインとするパズル的なものー。
〝魅力的な謎を提示!?〟
〝鮮やかな推理で一気に解決!〟
する快感を追求したものーーーを集めてみました。
というのも、これはもともと、〝私個人の半身浴用コレクション〟だったからです。
半身浴する間の20分間……。
音楽を聴くかたも静かに瞑想するかたも、雑誌を読むかたもいらっしゃるでしょうが、私はやっぱり本が欲しい……。
20分しかないからそりゃやっぱり短編だな……だし、お風呂で読むから軽い文庫かしんしょだな……だし、ホッとしたいわけですから、あまり悲惨だったり、血がいっぱい出たりするのもやだな……。
かといって文章がヘタだったり、つじつまがあってなかったり、あまりにも中身がからっぽだったりしても、かえってイラつくしな……で、後味が良くて……という、そんな贅沢な!そんな都合のいい話、そうそうないよ、という本をアリが砂糖の粒をせっせと巣に運ぶように、せっせとお風呂用本棚に集めていたのですが……、そういう本、読みたいと思う人、私のほかにもいますよね!
で、そういう話ばっかりまとめたアンソロジーを作ってみたわけです。
というわけで、これは別名〝殺人のないミステリー〟で、まぁ何人か、殺されないわけではありませんが、なんていうか、ストレートには登場してきません。
こういうパターンというかタイプのミステリーを〝コージーミステリー(気持ちのいいミステリー)〟とか〝ティー&ケーキのミステリー(お茶飲んでケーキ食べながら読むってことかな)〟とか、日本ではこの巻にも登場していただいている北村薫氏が創始者と言われています。
〝日常生活のささいな謎を、論理的に明確にする〟
ーーー〝日常の謎〟のミステリーとか呼んでいるのですが、いまいち、どれもミステリー好きな人はもちろん知っているけど、そうでない人にまで広まってません。
〝ライトミステリー(軽い…ほうじゃないですよ、明るい、のほうです!)〟という、呼びかたも考えましたが、日本語の発音は同じだからね、〝お手軽ミステリー?〟と思われる可能性が大きい!
それは困る!
というわけでシンプルに「ミステリーセレクション」にしました。
そうしてこの(?)は、いままであまりミステリーなんて読んでないし、知識なんてないわ?というかたのために書いています。
ですからこの道数十年……あなたが大のミステリー通でいらっしゃるなら、こんなとこは飛ばしても構いません。すみやかにおすすみください。
さて、この巻のお話は……?
テーマは〝ごはん〟です。
私は本と同じくらい食べることが好きなので、本のなかに食べものが出てくると、それだけ思わずわくわくしちゃうんですよね。
でも、ミステリーのなかでは〝食べること〟は毒殺という殺しかたの重要ポイントで、だれだってごはん食べずにいられないですから、食べることは結構怖いです。
毒殺は力がなくてもできるし、ほとんど血もでないし、自分でやらなくてもいいし、その場にいなくてもできるし、逆にその場にいないから、まちがって他の人を殺しちゃったりもするし……で、〝毒殺ミステリー〟という大きなジャンルのひとつです。
でも、ここでは〝怖くない〟……もの。
まずは軽妙酒脱……お洒落で小粋なO・ヘンリの「アラカルトの春」。
O・ヘンリは優しそうにみえて、実はバッサリ!というものも多いのですが、これは暖かいです。もしかして、O・ヘンリの短編の中で一番無邪気で暖かいかもしれないなぁ……。
大都会ニューヨークで田舎から出てきた不馴れな恋人同士が住所を失くして会えなくなる、という話ですが、今と違ってパソコンもケータイもテレビもない時代ですから人探しったら〝新聞広告?〟くらいしかないよね、確かに……。
他人から見たらほほえましい笑い話でも、本人たちにしたら大パニックですよ。
例によって実に鮮やかに(黄色と緑のサラダが目に浮かぶわ~)オチを決めます。
スープの提供者は〝ブロンクスのママ〟ーーー。すなわち「ママは賭ける」です。
「リトルセレクション」の『不良少年』にも「ママは憶えている」が入っていますが、警官である息子と夕食を食べながら(ですからもうすでにここで美味しそうなごはんが紹介されるわけですが)、息子が解決できなかった事件をあっさりクリアする、という典型的な〝安楽椅子探偵〟もの、の代表的な名探偵の一人です。
料理にはコックだって必要です。
コックが出てくるミステリーっていったら、もちろんレックス・スタウトの『料理長が多すぎる』が頭に浮かびますが、あれは長編です。というわけで、ポワロといなくなったコックの話をーーー。
クリスティは〝トリックの女王〟と呼ばれたトリックの大名人で、後期の作品になるとストーリーという肉の中にかくれてトリックは目だたなくなりますが(でもホントは凄いの)初期の作品はあまりお肉がなくて、読みやすくてわかりやすいです。どっちが好きかはお好みですが。
この話はポワロ初期の短編集からなので、わかりやすくて読みやすいタイプです。
食後の紅茶は北村薫氏ご提供の「砂糖合戦」をーーー。
この連作シリーズで、北村薫氏と探偵の円紫さんはデビューし、同時に〝日常の謎〟という新しいミステリージャンルが誕生したわけです。
まぁ、シャーロック・ホームズでも、そうしてホームズのモデルだといわれているベル博士がそもそも、自分の前にすわった患者さんの手や服装からいろんなことを推理する、安楽椅子探偵だったわけですけど、それをもっと明解に、前面に押しだしたわけで、今では何人もの作家と何十冊もの本がそのあとに続く、一大ジャンルとなりました。
ここに入れた作品にはたいてい五、六編からうまくすれば何十冊も!お仲間がいます。
気に入ったら……他の作品も読んでみてください。
たぶん、みんな……怖くないよ。