かん子の連載

◆ お風呂でミステリ ◆  はじめに & 第一回

・・・ はじめに ・・・

お風呂で半身浴するときに、雑誌を持ってく人もいれば音楽聞く人もいます。
私はミステリの短編……。
肩が凝らなくて、あんまり頭使わないで(となると科学の本や社会学の本は難しくなるので、ここでは文学のみを扱います)でもちゃんと中身があって読みごたえがあって(ないとストレス解消にならない……あまりにもちゃちいと逆にイライラしてストレス溜まる)一回か二回で読み終わる……くらいの長さがいい……となると短編でしょう。
そういう一冊を見つけるとやった!
これで一週間は楽しめるぞ、と思うわけです。
もちろん、お風呂じゃなくても、電車のなかでもトイレでも場所はどこでもいいんですが、要するに細切れの時間しかなくても読みたいときに読める本のブックガイドです。

あ、でも本当にお風呂で読むときには自分の本で……。
図書館の本だと、たま~に、ぼっちゃん、することもありますからね。
古本屋さんで一冊100円で手にはいるとこも多いです。

・・・ 第一回 「バルーン・タウンの殺人」 ・・・

バルーン・タウン、というのは人口子宮が当たり前の時代に(だからこれは一応近未来SFです。発表されたのもSF誌)古風にも自分のお腹で赤ちゃんを育てたい、という女性たちのためにつくられた、妊婦しか住んでいない町のことです。
高い塀で囲まれ、パスがなければ入れない、厳重に守られている町の出口で男が一人、妊婦に殺されます。
目撃者は何人もいるのに、突き出たお腹に驚愕して(だって、ほら、妊婦なんて見たこともないわけですから)誰も顔を覚えていない……。
町のなかに逃げ込んだのだから本物の妊婦のわけですが、見かけたほかの妊婦たちも、お腹の大きさ(8ヶ月だと思うわ)と形(みたことないほど立派なとがり腹でした……)しか覚えていない……。
“妊婦は透明人間なの、お腹以外は……”という、ミステリ史上かつてない驚くべきトリック!?
かつ
“エレベーターは満員だった。といってもぎっしりなのはお腹の回りだけで顔のところはすいている”というような描写で満ち溢れた、抱腹絶倒ユーモアミステリーです。
タイトルも“亀腹同盟”とか“なぜ助産婦に頼まなかったのか?”とか、ミステリファンなら誰でも笑えるお遊びがいっぱい……。
でもそのオリジナルを二重三重にひねり、やがてはさまざまなジェンダー系の問題が浮かび上がってくる、という素晴らしくよくできた一冊です。
これがデビューなんて、信じられない。
解説は有栖川有栖ですが、これまた絶品です。

2017年05月30日