かん子の連載

​水曜日の歌 ♬~  第二回

第二回

柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺
正岡子規

表面的には、柿を食べていたら法隆寺の鐘が鳴ったよ、というだけの句ですが、
俳人の坪内稔典(つぼうちとしのり、俳号はねんてん)氏は、この句を詠んだとき、子規は、親友、夏目漱石の
“鐘つけば銀杏散るなり健長寺”
という句が頭にあったのではないかというておられます。
私もそうだろうと思います。
そうして、漱石のことを考えたのであれば、もう二度とこの世では会えないんだなぁ、ということも当然考えたでしょう。
漱石が留学を終えて帰ってくるまで、自分はもたないだろう、ということは二人ともわかっていたのですから……。
そう考えるといきなり牧歌的な歌からせつない歌に変わると思いませんか?

このときの子規は、すでにあの世とこの世の境にいたようなものでした。
漱石のことを考えながら聞いたこの鐘の音はどんな風に聞こえたのだろう、と思います。
あの世に連れていってくれる優しい響きだったのか、それとも無情な響きだったのか……。

どちらかはわかりません。
全然そんなことは考えてもいなかったよ~、と子規はいうかもしれません。

文学では、実際にはどうだったかはあまり重要ではありません。
この歌でも、子規が実際に柿を食べてるときに鐘が鳴ったかどうかはギモンです。
どれだけ豊かに広げられるか、が大事なのです。

2017/06/14