かん子の連載

LGBTQ+の本棚から 第263回 遠回りしたら僕から・6

トランスジェンダーの林ユウキさんからの寄稿を数回に分けてご紹介しています。
※この寄稿文はブクログには掲載しません

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【遠回りしたら僕から・6】

中学までは義務教育だけど、中学時代が終わってしまえば、次はどうすればいいのか、という話になる。中学を卒業して、僕は住んでいる所から遠い場所にある高校に進学した。

 というのも、不登校の期間が長かったので内申点が足りず、地元にあるどの高校にも進学できなかったのだ。夜間も通信制もアウトだった。

 そこで、不登校の児童を積極的に受けいれている高校を母が探してきてくれて、入学することになった。

 見学した感じ、そこなら1年のブランクがあっても勉強も大丈夫そうな雰囲気だったし……。

 その学校は家から片道3時間かかる、全寮制の学校だった。それまでも祖父とは仲が悪かったので、家から離れられるのはなんとなく良い気がして、そこに決めた。

 当時は鬱状態でぼーっとしていて、物事を深く考えることができなかったので、性別のことは考えられていなかったのだと思う。

 さて、入学当日、寮の前に立った僕は、ドンッと存在を主張する寮名の看板に、改めて驚いた。

 見学に来たときはチラッと見ただけで何も考えなかったのだが、いかにも「清楚な乙女たちが生活している寮です!」って感じの寮名なのだ。

 あぁ、女の子の寮に来たのだなぁ、としみじみ思った。

 その上、中に入って驚いたのが、部屋がまさかの16人部屋!

 150㎝くらいのパーテーションで一人ずつ区切られただけの大部屋だったのだ。見学したときはぼーっとしていたので、そんなもんか~と思っていたけど、本当にここで生活するとなるとすごいところに来てしまったと思った。

 そうして僕が自分に割り当てられたスペースにつくと、優し気な先輩が声をかけてくれた。

 ここにはシスター制度というものがあって、一人ひとりに決まった先輩がついて面倒を見てくれるのだという。優しそうな人で本当によかったと安心したし、実際そのあと、この先輩にはとてもお世話になった。この人がいなかったら、僕は寮生活そのものに挫けて、早々に学校を去っていたかもしれない。

 部屋の収納のしかたや、ベッドメイキングなんかを教えてもらって、気づけば夜になっていた。

 そこでやってきたのが、入寮初のお風呂イベント。

「お風呂行くよ~。お風呂セットの用意できてるかな?」

 お風呂にいく? えっ?一緒に入るの!?と混乱しながら、お風呂セットをもって先輩の後についていくと、脱衣所には女の子がうじゃうじゃ!

 女子寮なのだから考えたらあたりまえなのだけど、銭湯とか、そういう裸になる系のイベントをこれまですべてスルーしてきたので、仰天した。

 でも先輩が着替えだしたので、自分も服を脱いだ。めちゃくちゃ恥ずかしくて、嫌だったけど、ここで異様に嫌がったりするのは入学早々浮くよなあ…と思って、まわりのことはできるだけ見ないように、目を細くしてがんばった。

その様子を見て先輩は「最初は恥ずかしいよねぇ」と笑っていた。誰もが通る道のようで、少し安心した。

 そこは一度に20人くらいは楽に入れるくらいの大きさのお風呂で、シャワーの使い方はこうだとか教えてもらって、一緒に大きな湯船につかったり、色々教えてもらいながら無事に終えることができた。すこし混雑していた時のお浴槽は芋洗い状態って感じで面白かった。

 再び脱衣所で着替えたが、ドライヤーの数が4つと限られていて並ばなければならず、待っているあいだは暇になるので、目を細めていても周りの女の子たちが目に入ってくる。ことになる

 1年生はみんな恥ずかしがっていたが、2.3年生は堂々としている。たくさんの女の子たちがセクシーな下着やかわいい下着を着て談笑するのをみて、あー、本当にここは女子寮なんだな、と思った。

それが初日で一番インパクトのある思い出だ。

2023年03月27日