かん子の連載

水曜日の歌 ♬~ 第四十五回

 ――待て、泣くな泣くな。――

 工人、近江之丞桃六おうみのじょうとうろく、六十むそじばかりの柔和なる老人。
 頭巾ずきん、裁着たッつけ、火打袋を腰に、扇を使うて顕あらわる。

桃六 美しい人たち泣くな。

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泉鏡花の「天守物語」のクライマックスです。
獅子がしら、の眼を傷つけられたために、白鷺城主の姫君は眼が見えなくなってしまいます。
猛々しい無遠慮な侍たちが城を登ってくる……。
もはやこれまで、と思ったときにこの老人が表れ、獅子の眼を彫ってくれ、眼が開くのです。
いきなりでてきて美味しいとこさらってゆく、こんないい役は滅多にありません(笑)。
鏡花の作品のなかでも一番有名だといっていいセリフです。

2018/04/25