かん子の連載

LGBTQ+の本棚から 第301回 遠回りしたら僕から・15

トランスジェンダーの林ユウキさんからの寄稿を数回に分けてご紹介しています。
※この寄稿文はブクログには掲載しません

☆ ☆ ☆ ☆ ☆

ここまで書いてきたような感じで、僕の人生は今に至る。
色々なことがあったし大変だったけど、なんだかんだ後悔はしていない。これまでの全てがあって、今の僕がいると今は思うから。
とはいえ、もっと早くこうしていればと考えたことがなかったわけではない。 
専門学校入学前に名前を変えていたらもっとスムーズだったかもとか、胸オペをもっと早くしていたら周囲に馴染みやすかったのかもとか、いくつもある。
でも覚悟が決まって、条件が揃ったのが26歳だったから、それはそれで良かったと思っているのだ。
改名もホルモン治療も手術も気軽にするものではないから、漠然と焦っているという人がいたら一度落ち着いて考えてみてほしい。 
名前は正当な理由があれば戻せるみたいだけど、治療と手術は不可逆なものだから。
もちろん、「即断即決して行動してよかった!」という人もいるので一概には言えないけど…。
覚悟ができていないという点で、僕はまだ子宮・卵巣摘出手術はしていない。
臓器を摘出するのがシンプルに怖いのと、生殖機能のない人間になるのが未知の世界すぎるからだ。
僕は昔から”普通”というものに重きを置いていて、憧れてきた。普通になりたかったし、普通に生きたかった。
自覚前の小さい頃に思い描いていた普通の人生の中に、「子どもを産む」というものが当たり前のようにあったくらいだ。 
ライフプランのなかに組み込んでいる人も多いだろうし、子どもを産み育てることは世の中で普通のこととされている。むしろ良いこととされ、推奨されてもいる。 
だからその普通を、生殖機能を失うのが怖い。
子どもを産む予定はないけど、「できるけどしない」ことと「できない」ことは全然違うから。 病気でとか、そういう自分ではどうにもできない理由ではなくて、自分でその道を選ぶ覚悟がまだできていない。 
傍から見たら、トランスジェンダーな時点で普通ではないのかもしれないけど、大事なのは自分の中で納得して行動することだからそこは特に問題ではないと思っている。
普通について、生きやすい状態について長い間、自分なりに色々考えた結果ベストな状態が今の僕だからこれで良い。 
人には人のベストな状態があると思う。
そのままがいい人、見た目だけ変えられればいい人、要らないものを無くしたい人。色んな人がいて、みんなそれでいい。 そう思えるようになった。
たくさん考えて、行動した結果の今の僕を結構気に入っているから、当分はこのままでいるつもりです。
僕の中の普通が変わったら、また動き出そうと思います。

2024年01月29日