水曜日の歌 _〜 第五十一回
六月
どこかに美しい村はないか
一日の仕事の終りには一杯の黒麦酒
鍬を立てかけ 籠を置き
男も女も大きなジョッキをかたむける
どこかに美しい街はないか
食べられる実をつけた街路樹が
どこまでも続き すみれいろした夕暮は
若者のやさしいさざめきで満ち満ちる
どこかに美しい人と人との力はないか
同じ時代をともに生きる
したしさとおかしさとそうして怒りが
高い鼻に胸でも病んでいるらしい
鋭い力となって たちあらわれる
詩集『見えない配達夫』より
茨木のり子です。
2018/06/20